祐子さん、
あなたと巡り会ってから半世紀が過ぎました。
長い隔たりがあっても
私にとって二人で過ごした日々は、今も青春時代という映画の大好きなシーンです。
一緒に観た「追憶」のように。

ほんとうに酷い別れ方をしてしまいました。
あんなに愛してくれた祐子に辛い仕打ちをしてしまった‥沈む夕陽を追いかける様な後悔は心の中から消えることがなかった。
取り返しはつかないし私がつけた傷は消えないでしょう。
それでも、あなたを原野祐子を愛していたのは本当です。
壊れてしまったのは、あなたの想いに沿う事に怯えた私が意気地なしだったから。

あなたは私にとってかけがえのない魅惑の恋人でした。
祐子に告白されたあの日から私は恋愛映画の主役になれました。祐子の愛が嬉しくて仕方がなかったのに、母性の分だけ少しだけ大人だったあなたに、「女らしい」祐子に、引け目を感じていつも素直になれなかった。
困らせてばかりでした。
何もかもが「初」という文字で表されていたと言えば弁解になりますよね。

時折り高校の周辺を歩きます。
校舎の姿は変わっても
あの坂道に、この公園に、毎日乗り降りした駅に祐子の面影と甘い黒髪の香りがデジャヴュとなって揺れています。
下校中の後輩達の嬌声に思わず振り返る事があります。
祐子の声が聞こえた気がして。
目を伏せれば
瞼の裏にはあの頃の二人が居ます。
帰りたくないから駅まで遠回りしながら歩いたね。
指を絡めて手を繋いだだけで幸せだった。
初キスの時、歯と歯が当たった感覚は今も新鮮で甘酸っぱい思い出。
男と女の時も一緒に彷徨ったよね。
何度もかけた祐子の家の電話番号の末尾は1996だった。
「祐子はどこに‥もう会うことはないのかな‥」
そんな思いが募ってここに来ました。
身勝手は承知だけれど、あなたに、原野祐子にもう一度会いたい。
氷室の奥に凍りついた二人の初恋を少しだけ溶かしてみませんか?
待っています。


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