祐子へ
「原野」は旧姓でしょうか。
あなたとめぐり会った昭和48年の春から50年余りが経ちました。

高志です。
遠く年月が流れても祐子と巡り会い過ごした日々は淡い水彩画のような青春の想い出です。
あなたにとっては切なく、苦い思い出かもしれません。
一緒に観た映画「追憶」のラスト•シーンように。

わたしは、ひたむき
に愛してくれた祐子に辛い思いをさせて「さようなら」も言わずに去りました。
酷い別れ方でした。
夕陽を追いかけるように後悔をしても取り返しはつかないし、祐子の傷も癒えることはないでしょう。
恨まれていても当たり前です。
愛が壊れてしまったのは、あなたの想いに添う事に怯えた私が意気地無しで身勝手だったから。
それでも、あなたを、原野祐子を愛していたのは本当です。

祐子は私にとってかけがえのない魅力溢れる初恋の人でした。

思いを寄せていた祐子に告白されたあの日から、私はあなたに夢中になった。
初めての「恋愛」に戸惑いながらも、より深みに堕ちて行くことが喜びだった。
祐子の愛が嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのに、成績が良く、大人びてセクシーな祐子に引け目を感じて素直になれなかった。
いつも困らせてばかりいたよね。
何もかもが「初」という文字で表されていたと言えば、弁解でしょうね。

祐子が好きだった「EAGLES」
のドン•ヘンリーが囁く。
Desperado
ダイヤのクイーンなんか欲しがるなよ
彼女その気になりゃお前にそっぽ向くぞ
お前に似合うのはハートのクイーンだ

時折り高校の周辺を歩きます。
校舎や街の姿は変わっても
この坂道に、あの公園に、毎日乗り降りした駅に祐子の面影と甘い黒髪の匂いが蜃気楼のように揺れている。
下校中の後輩達の嬌声を振り返る時がある。祐子の声が聞こえた気がして。
眼を伏せるとあの頃の二人の姿が浮かんでくる。
離れたくないから駅まで遠回りしながら歩いたね。
指を絡めて手を繋いだだけで幸せだった。
祐子は覚えている？
初キスの時、歯と歯が当たった感覚を。わたしには今も甘い記憶。
男と女になって、愛が育って、見えた景色は少しばかりの優越感を与えてくれたよね。
何度もかけた電話番号の末尾は祐子が1996。わたしは5060だった。

Desperado
そろそろマトモになったらどうだ
いいか お前を愛してくれる人にお前のこと愛させてやれ
手遅れになっちまうぜ

あの頃の私に勇気があれば‥その後の「蹉跌」は「明日」に繋がったのかもしれません。

「祐子はどこでどうしているのだろう‥もう一度会いたい」
勝手だけれど、あなたに、初めて愛した女(ひと)、「原野祐子」に会いたい。
もし会えたら
氷室の奥で凍りついた二人の初恋の物語りを少しだけ溶かしてみませんか？
その日を待ってます。